1/2ページ目 離れで、於琴は三味線を弾いていた。 弾きながら、唄っていた。 それは切ない恋心を唄った、京鹿子娘道成寺の一節だった。 溜息をつき、於琴は三味線の手を止めた。「…歳三さん…。」 於琴はそっと呟いた。ふと、於琴は歳三の姿を思い浮かべた。 於琴の胸には、歳三への淡い恋心が芽生えていた。 初めて歳三を見た時から、於琴は密かに想いを寄せていたのだ。 於琴が初めて歳三を見たのは、いつだったか…。 それは、於琴が父に伴われて初めて土方家を訪れた日の事だった。 土方家の長屋門をくぐる時、於琴は歳三とすれ違った。 歳三はちょうど、薬の行商に出ていくところだった。 すれ違い様、一瞬だったが、於琴と歳三の体が触れた。 その瞬間、歳三は於琴を凝視したが黙って通り過ぎて行った。 その場に立ち尽くし、於琴は歳三の後ろ姿を見送っていた。微かに身体が震えるのを、於琴は覚えた。それが何故だか、その時には於琴には解らなかった。 それから…。 於琴は時々、土方家を訪れた。 歳三の義兄である、為次郎は、初めて於琴の三味線を聴いてから、すっかり彼女の三味線に惚れ込んでしまった。 それからと言うもの、於琴を時々、家に招いては、於琴の弾く三味線を楽しむようになっていた。 於琴は土方家を訪ねる様になってから、時々歳三を見掛ける事があった。 離れにある、為次郎の部屋で三味線を弾いている時、歳三の視線を感じる事もあった。 そんな時、於琴は胸の高鳴りを覚えた。 於琴は、歳三へ恋心を抱き始めていることを、はっきりと悟るのだった。 歳三と、土方家の前で擦れ違う事はあっても、一度も言葉を交わす事はなかった。 それでも於琴は嬉しかった。 ただ歳三を見掛けたりするだけでよかった。決して届かぬ想いでも、於琴はいいと思った。 そんな於琴に思いも寄らぬ出来事が起こる。それは歳三との縁談…。 於琴は戸惑いを覚えつつも、密かに想いを寄せる歳三との縁談に胸が躍った。 於琴は歳三の許に嫁ぐ日を夢に思い描くようになった。 於琴の許に、縁談が白紙の状態になった話が知らされたのは数日前の事だった。 [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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