梅香抄 ‐出会い篇‐

【其ノ弐】
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行商の傍ら、歳三は時折、於琴の家に立ち寄った。
家の中から、三味線の音色が聞こえて来ると、その場に佇み、耳を傾けた。
於琴の三味線に、歳三は心が落ち着くのを覚えるのだった。



とある日。
行商を終えた歳三は、ふらりと佐藤家に立ち寄った時、姉である、のぶから意外な話を聞かされた。
それは、於琴との縁談だった。
あまりに突然で唐突な話に、歳三は驚きの色を隠せなかった。
於琴との縁談など、歳三には全く、知らされてなかった。そればかりか、何の相談もなく、勝手に縁談が進められていたことに、歳三は呆れて言葉も出なかった。
「姉さん!縁談って一体、何の話ですか!?於琴さんとは一回だけ、為次郎兄さんの部屋で会っただけです。
一度も話をしたこともない。
縁談なんて無茶苦茶な話ですよ。
それに俺は、嫁を娶る気なんて更々ない。
彦五郎義兄さんですね…?縁談を決めたのは?」
自分の知らぬ間に、於琴との縁談を決めたのが、義兄である彦五郎であることを、歳三は直感した。


歳三は彦五郎の部屋に向かった。
そして、部屋に入り、彦五郎を見つけるなり血相を変えた。
「義兄さん!俺に黙って勝手に縁談を決めるなんて、ひどい話じゃないですか?」
歳三は義兄である、彦五郎に食ってかかった。
更に歳三は言葉を続けた。
「とにかく、俺は縁談なんて、まっぴらごめんだ!今の俺には武士になる志しがある。武士になって、名を上げるまでは、そっとして欲しい。」
きっぱりと歳三が言うので、彦五郎は言葉を返せなかった。
しばらくして、彦五郎は嘆息をついた。
「そこまで言うんだったらしかたない…。
於琴さんの話を為次郎さんから聞いて、本当に良い縁談になると思った。於琴さんはまだ15だが、器量よしだし、戸塚村では評判の小町娘だ。三味線の腕も清元の名取を持つ程だ。
お前さんの嫁にと、縁談を進めていったんだが…。」
「とにかく、今は俺をそっとしておいて下さい。」
きっぱりとした口調で歳三は言った。
そんな歳三であったが、心に何か引っ掛かる物を感じずにはいられなかった。

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