1/2ページ目 於琴…。 歳三は後に長兄である為次郎から於琴の素性を聞かされた。 戸塚村で三味線屋『糸竹』の主人、月廼屋忠助の一人娘であること。佐藤家の遠縁であること。 浄瑠璃を嗜む、為次郎が、『糸竹』を贔屓にし、撥や糸等を買い付け、更に三味線の修理を依頼していた。 とある日、店を訪ねた時、於琴の弾く三味線に心を惹かれてしまう。 於琴の三味線の腕前は父を凌ぐ程で、清元の名取を持つ程であった。 まだ、十五のあどけない可憐な少女だったが、一度三味線を弾くと、凛とした美しさを漂わせていた。 於琴の腕前は三味線を奏でるだけではなかった。 修理や調律にも長けていた。 為次郎は於琴の腕に惚れ、調律や修理一切を依頼するようになった。 為次郎から、於琴の話を聞かされた歳三は於琴に心を強く惹かれるのだった。だが、歳三は、そんな自分を心のどこかで否定しようとした。 …まだ子供じゃねえか…。 そう思い、歳三は自分を嘲笑した。 於琴と初めて出会った日から数日経ったある日の事…。 歳三はいつもの様に石田散薬の行商に出ていた。 その帰り道…。 歳三の足は無意識に戸塚村に向いていた。 いつの間にか、歳三は於琴の家である、『糸竹』の店先に立っていた。 『糸竹』は戸塚村でも立派な店構えであった。 門戸をくぐると、立派な竹林や、小さいながらも梅林もあった。 庭の方からはほのかに梅の甘い香りが漂って来た。 甘い香りに歳三は酔いしれた。 しばらく、歳三はその場に佇んだ。 ふと、庭の離れから、艶やかな三味線の音色が聞こえて来た。 その瞬間、歳三は胸が熱くなるのを覚えた。「於琴…」 歳三の脳裡に於琴の顔が浮かんだ…。 頬を染め、恥ずかしげに歳三を見つめていた、於琴…。 あどけなさの中に凛とした美しさを感じさせた於琴…。 歳三は三味線の音色に耳を傾けながら、於琴の面影を追った。 [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
w友達に教えるw [編集] 無料ホームページ作成は@peps! |