2/2ページ目 三味線の音色に誘われるかのように、歳三は兄.為次郎の部屋の前まで、ゆっくりと歩み寄って行った。 為次郎の部屋の庭先に佇み、歳三は部屋の中をそっと覗き込んだ。部屋には一人の少女が為次郎に向かい合って三味線を弾いていた。 自分の弾く三味線に合わせ、少女は唄っていた。三味線の腕前もさることながら、その歌声は、透き通り、まるで鈴を転がすように美しいものだった。 三味線の音色と美しい歌声に、歳三は驚きのあまり声を失った。 呆然とその場に立ち尽くすばかりであった。 少女の三味線の腕前は為次郎を凌ぐ程だった。 歳三は絶句した。 少女の弾く三味線の音色と歌声は、歳三の心の琴線を大きく揺らした。 しばらくの間、歳三は三味線の音色に耳を傾けた。 どれくらい時が経っただろうか…。 三味線を弾くのをやめ、少女が不意に庭先の方を向いた。 歳三の存在に気付いた瞬間、少女は驚いた様子で歳三を見つめた。一瞬、歳三と少女の視線が合った。その瞬間、歳三は体中が熱くなるのを覚えた。 少女は頬を紅く染めて俯いた。微かに体が震えていた。 「於琴さん…?一体どうしたのかね?」 琴…。それが少女の名前だった。 為次郎は琴の様子がおかしいのに気付いた。更に為次郎は庭先にぼんやり立ち尽くす歳三に気付いた。 「そうか…。歳三が…」 為次郎は微笑みを浮かべ、琴に顔を向けた。「歳三…。そんな所で突っ立ってないで、こっちに来たらどうだ?お前にも於琴さんの三味線が解るようだから、ゆっくり座って聴いたらどうだ?」 先刻から、呆然と三味線を聴いているところを兄.為次郎に悟られてしまった歳三…。罰が悪そうに黙って兄の方を見つめた。 「戸塚村の三味線屋『糸竹』の一人娘さんの於琴さんだ。私が贔屓にしている三味線屋の…。」 「於琴…。」 歳三は於琴をじっと見つめた。 於琴は頬を紅く染め、恥ずかしいそうに歳三を見つめていた…。 [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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