1/2ページ目 外の様子がやけに静かで、いつもと違う雰囲気に目を覚ますと、そこは見知らぬ場所だった。いや、知っていたという方が正しいか。 だが、そこは変わり果てていた・・・ そこは少年が生まれ育ち、以前は美しかった龍の谷"ドラゴンバレー"であった。 木々は焼き払われ、もはや谷ではなく、ただの平地のように平らだった。そして、雲ひとつないスカイブルーが美しい空と、只々太陽が燃えるような暑さとまばゆい輝きをはなっているのが見えるだけ。それが少年の心を傷つけ、癒し、恐怖させる。そこに一つだけ存在している自分の家。なぜ、自分の家だけ無事なのか。なぜ、このような状況になってしまったのか。なぜ―――。それは少年の未発達の脳では処理しきれず、頭の中をぐるぐるとまわるだけ。 「ここは・・・ドラゴンバレー・・・?」 口から漏れる声は一人では生きてはいけないだろうあまりに幼い少年。 そして、そこで生まれ育った幼い少年にとってそれは惨劇というに相応しかった。目の前には両親が倒れていて、そのほかにも一緒に遊んだり、人生においてはムダな話を面白おかしく話した友達、それを守るようにかぶさっているそれらの両親などにも手はおよび、夥し過ぎるほどの真赤な液体。それが地面に貪られ消えゆく様子を見守ることしかできなかった。ふと、自分の両親のもとへとしゃがみこみ、変わり果てた大好きだった父を抱き、もはや肉の塊と化した優しかった母の無残な姿に目をそらす。 「お父さん!みんな!しっかり・・・ひっぐ・・・してよぉ・・・」 少年は泣いた。見ると父を支える手が冷たくて真っ赤などろどろとした液体で染まる。 「・・・?」 少年は父親の体の下で握り締めている紙切れを見つけた。血が変色もなく、乾いていないところから死後時間が経っていないと思われたが、何故だか死後硬直が始まっていた。 少年には動かすのもやっとだったろうその手から少年は、ただただ必死にその手からむしりとるように紙を抜き取り、それを開いてみた。 ライカにささぐ――――――ライカよ、強くあれ。 そう書かれていただけだった。 その手紙にまた涙が溢れ、悲しみか、それとも別の何かか、紙を握る手も震えている。拭いても拭いても涙が止まらない。ボロボロと零れ落ちる大きな雫が父の体と地面をいつまでも濡らし、文字をにじませていた。 しかし、いつまでも泣いていては父親に怒られてしまう。そう思った少年は手紙を握り締め、涙を拭き、変わり果てたドラゴンバレーをフラフラとよろけながら去っていった。 そして、その惨劇から14年の月日が流れ――――――。 「さてと、今日も一仕事、一仕事♪」 言ってスポットに集まっている依頼掲示板に板全体にびっしりと張り出されている依頼状の中で人探しの依頼状を俺は手に取り、依頼を受ける。もしかしたら俺が探しているヤツと同一人物かもしれないという根拠のない期待を寄せて。 俺はあの時からいなくなった兄さんを探しながら、あの惨劇を引き起こしたヤツを探し出すために"渡り鳥"をしている。 渡り鳥は所謂なんでも屋。仕事はある場所で請け負うのである。しかしギルドと違うのは、善意で仕事をしたり、依頼先で新たな依頼を受け持つこともあるということだ。 「・・・!」 依頼先に行く途中―――スポットから出たばかりなのだが―――、道端に倒れている人影を見つけた。近くにほかの人は見当たらない。普段賑わっているはずのこの通りも風の音が聞こえるほどに静かだ。これは渡り鳥として、俺自身としてもほうってはおけない。その人影に近寄り。 「大丈夫か!?」 「ん・・・」 声をかけると反応することから意識はあるようだが、危険な状態に変わりはなかった。なぜなら全身に傷を負っていて致命傷であろう深い傷まである。 そして、倒れていたのは狼の獣人。 「大丈夫か!?傷だらけじゃないか!」 「大…丈…夫…」 言って、男は意識を手放し、深い、深い、眠りについた。しかし、相当鍛えているのか意識を失っただけで死んではいないようだ。弱々しいが規則正しく寝息を立てている。 「大丈夫なもんか・・・」 俺は仕方なく、 今出てきたばかりの"スポット"に男を連れて行き、男の回復を待った。 「キュア!」 医療班が回復術を唱えると、神様だろうと何だろうとびっくりするだろうほど速くに傷が癒えて行く。 しかし、それは外的な傷のみの話。 「ん・・・ここは・・・?」 しばらくして、男は目を覚ます。 「ここは俺たち"渡り鳥"が依頼を受ける場所だぜ」 「渡り鳥・・・そうか・・・やっと・・・」 ほっと胸をなでおろし、少し考え込むように俯き、そして 「俺も渡り鳥になれるか?」 いきなりの発言。少し驚いたが、俺はなんだかうれしくもなってしまった。 「あぁ、なれるぜ。ただし、完全に体を治してからだな」 「なぜ・・・?」 体を治してからという言葉が気になったのか首をかしげ聞いてきた。 「渡り鳥になるためには実技試験に合格しなきゃいけないからな」 その質問に答えてやると、納得したように頷き、 「どんな試験なんだ?」 「それは魔物退治の実践形式だ」 「そうか・・・」 男は思った以上に回復が早く、その回復力には恐れ入った。数日はかかると思われた体力や疲労もわずか数時間で完全に回復してしまったのだから。それからしばらくして男はジンと名乗った。 などなど会話をしながら、スポットの通路を歩いて行く。その数分間のうちに俺たちは打ち解け、互いに名で呼び合うようになっていた。 「ここって広いんだな・・・」 「まぁ、広いな。最初は俺も迷ったしな・・・着いたぞ」 俺は苦笑しながら立ち止まる。こちらが立ち止まったのを見て、慌ててジンも立ち止まった。そして二人の目の前にはドア。木製の、しかも古い造形で、最新鋭のこの施設にはあまりにも不釣合いだとジンは思ったらしい。口がポカンと開いている。・・・俺も最初はああだったな。と思いながらジンを眺めていた。 「ここは?」 やっとの思いで口にしたのか先ほどまでの軽やかな口調はどこ吹く風か。とてもぎこちなかった。 「ここは渡り鳥の総帥室みたいなもんだ」 「みたい?」 「知っての通り渡り鳥はギルドと違って総帥がいないからな。一番強いやつが総帥のかわりをやっているんだ」 言って、俺は総帥室擬に入って行く。木製のドアからは想像し難いスライド式の自動ドア。しかもIDカードを使用し、声紋、指紋、静脈紋のパスを通さないとドアが開かない仕組みになっていて、セキュリティもしっかりしている。木製に見えていたそれは木製ではなかった。またポカンと口をあけてしまうジン。思わずその姿に俺は噴き出してしまった。しかしジンには怒る余裕などなく、口が開いたままよたよたと中へ。其の仕草がなぜだか無性にかわいかった。 総帥室のなかは書類整理のための机と、その机にあった高さの椅子が置いてあるだけの素っ気ない部屋。 詰まんないところだな。おそらくジンの第一印象はそんなところだろう。 「ただいま帰りました」 「ご苦労様。私はこれから仕事があるからよろしくね・・・って、その子は?」 俺の後ろに隠れていたジンを見て気になったのか、総帥は尋ねてきた。 総帥は人間の女性だった。髪の毛は長く、後ろで結んでいて、ポニーテールのようだ。淡いピンク色が美しいとさえ思わせる。 彼女が使用している魔機はライデンと呼ばれるイカヅチを纏った太刀である。 「さっき倒れていたのを助けたんだ。んで、加入したいっつうから連れてきた」 おどおどしているジンの背中をたたき、総帥の前に押し出した。 「初めまして、ジンといいます」 「そう、ジン君っていうんだ。よろしく」 「よろしくお願いします」 社交辞令のようにお辞儀を繰り返す。 「総帥・・・仕事なのでは?」 半ばあきれたような声と仕草をし、俺はいった。 「そうだった!じゃ、また!」 ライデンを持ち、慌てて部屋を出る。そして俺は一通りジンにスポットを案内し、依頼に向かった。そして案外あっけなく終わり、捜していた奴でもなかった。依頼完了を報告し其の日は眠りにつくことになった。 それから数日経っても総帥は帰ってこなかった・・・ 「ライカ!総帥が応援を頼むだそうだ!No.2のお前が行ってくれ!」 友人であると共に、仲間であるクゥルがとても慌てた様子で総帥室にて待機していた俺に告げた。 「え!?わかった!」 俺は焦った。なぜなら総帥が助けを求めるなんて一度もなかったからだ。これは相当やばいな。と思考を巡らせながら、準備にかかる。 「俺も連れてけ!」 ジンはまるで自分の仲間であるかのように慌て、心配し、声を荒げて言った。 「だめだ!」 俺はジンの実力も知らない。まして一般人に危険な目に合わせられない。そう思い、同行を拒否する。 「わかったよ。だったら、勝手についてく!」 「・・・・わかったよ」 あいつの信念なのか、これ以上言っても何も変わらないな―――時間もなさそうだし―――。と思い同行を許可した。 「クゥル。場所は?」 「E―17地区だ」 「な!?それって・・・」 そう。そこは嘗て俺が生まれ育ったドラゴンバレー。その場所に他ならなかった。 <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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